ここではスポット記事としてイギリスのメイ首相の後任が決まるまでのプロセスと、その後の考えられるシナリオについてまとめていきたいと思います。
メイ首相の辞任表明によって、2019年5月現在、イギリスのEU離脱はより混迷の度合いを濃くしています。合意なき離脱となってしまった場合はイギリスのみならず新興国も含めた世界全体のマーケットへの影響も相応にあると思われますので、どのアセットクラスに投資をしていても一定程度の注意を払っておくのが良いでしょう。
メイ首相の後任決定プロセスのポイント
2019年5月24日、メイ氏は緊急の記者会見を開き、6月7日に保守党の党首を辞めると発表しました。
新党首が選ばれるまでメイ氏首相の座に暫定的にとどまる予定です。
保守党の党首選のポイントとしては、
- 保守党の党首選は2段階で進められる
- 3人以上が立候補した場合は、議員投票を複数回繰り返し、新党首候補を2人へ絞り込む
- 今回の場合、絞り込み投票は6月末まで実施
- 上位2人が党首選を繰り広げ、党員による決選投票で新党首が選出
- 1人しか立候補がなければ自動的にその人物に決定
- 6月10に始まる週まで立候補を受け付け
- 最終結果を7月末までに決定
しかし、すんなりいくとも限りません。
多くの候補者が乱立した場合はそもそも決選投票を行うまでに時間がかかり、長期化する可能性もあります。
例えばメイ氏の前任のキャメロン元首相を選出した2005年の党首選では、立候補の締め切りから決着まで約2カ月かかってしまいました。
イギリスには日本の様に議会で首相が指名されることはなく、議会の過半数を握る党のトップが、エリザベス女王から首相に任命され政権運営を任せれる仕組みになっています。
新党首が決まっても、反発した保守党員が離党したりすると、政権の発足自体が難しくなることだってあります。
決まって以降に起こること
10月末の離脱期限延期
2019年5月時点における離脱期限は10月末ですが、これは再延期される公算が高いのではないかと思われます。
合意なき離脱
より強硬な人物が党首となれば、EUに対してより強硬な要求をする可能性があります。
しかしEUは繰り返し、離脱協定の見直しはしないと明言しています。
協議がこじれた場合、10月31日の離脱期限前に両者が正面からぶつかる展開が予想され、合意なき離脱に一気に行く可能性があります。
また、一部の議員は、イギリスの次期首相の政治的立場を強めるために、合意なき離脱に向けた準備を加速することを望んでいます。
これは多くの人が避けたいシナリオですが、今回のメイ首相の交代劇でその可能性は高くなったと言えるでしょう。
総選挙
通常なら次の総選挙は2022年以降ですが、前倒しされる可能性があります。
ただ総選挙が行われる場合、いくつかの条件があります。
- 下院(定数650)の3分の2が選挙実施に賛成すること
- 内閣不信任案が可決され、その後14日以内にどの政党も下院で信任を得られない場合
現時点で、総選挙が行われた場合、その結果は予測がつきません。
二大政党の支持率が低下する一方で、ファラージ氏率いるブレグジット党や、自由民主党、スコットランド民族党、緑の党などの少数党勢も拡大している為です。
離脱取りやめ
離脱取りやめを行うためには、第二回目国民投票が行われる必要があるでしょう。
これまでずっと国民投票再実施を拒否してきたメイ氏が最後になって国民投票を示唆した事から、2回目の国民投票が実現する可能性が前よりは高くなっています。
実現への道は、
- 労働党が選挙で勝利する
- 議会が国民投票再実施を賛成多数で承認する
のいずれかでしょう。
離脱賛成派と反対派はともに2回目の国民投票に向けた準備を進めているようですが、それはそのまま投票結果が極めて不透明だからでしょう。
仮にEU残留が多数となった場合、ブレグジット賛成派は3回目の投票を要求する可能性もあります。
何らかの新しい協定
EUと全く新しい協定を結ぶ事は相当難しいでしょうが、理屈上は可能性があります。
EUは、英国離脱後の将来の関係について大枠を示す「政治宣言」の見直しには応じる構えですが、それ以外については再交渉しないと言っています。
何らかの新しい協定を結ぶ場合、相応の時間を要すると思われますが、離脱期限の長期間の延長に対しては、EU首脳の間でも意見が分かれています。
マクロン仏大統領は離脱期限の長期延長に反対、一方でメルケル独首相は欧州経済に打撃を与える混乱を伴うブレグジットを避けたいと考え、それが実現できるなら長期の期限延期も良いと考えているようです。
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