ブラジル第二次ルラ政権の経済政策の推移

2024年4月

財政黒字化の目標を先送り

ブラジル政府は2025年にプライマリーバランスを黒字化させるとの目標を取り下げました。

2026年に1年先送りした上で、GDP比0.5%としていた黒字幅を縮小する見通しを示しました。

2024年に収支の均衡を目指すとの目標は据え置いています。

当初は2023年に、2024~26年のプライマリーバランスの目標値を設定しており、25年にはGDP比で0.5%の黒字、26年には同1%の黒字との見通しを示していました。

2024年1月

産業支援へ9兆円

ルラ政権は1月22日、農業や製造業などの産業支援策を公表しました。

およそ9兆円に上る支援は、企業のデジタル化や機械化、二酸化炭素削減のための融資が大半となります。

期間は、2023〜26年の4年間ですが、過去の左派労働者党政権下では計画が遅れるケースも多く、懸念は残ります。

市場で財政悪化が強く意識され、株安・債券安(金利上昇)・通貨安のトリプル安となりました。

2023年12月

ここまでのところの評価は上々

ルラ政権が発足して2024年1月1日で1年を迎えました。今のところ評価は上々です。

これまでの成果としては、

  1. 経済では税制簡素化の法案を可決し、低所得者向けの現金給付を増やしながらも野放図な歳出拡大は何とか抑えている。
  2. 上記もあり、格付け会社2社から格上げを獲得。

ただ内外の企業による投資は低調なままで、経済活性化に向けたさらなる改革が必要と考えられます。

所得再配分を重視する極左のルラ政権発足に対しては、ビジネス環境の悪化を警戒する声もありました。

しかし、右派で良識派の副大統領の効果もあり、実際は、貧困層向けの現金給付を増やしたものの、歳入の増加額の7割を歳出増の上限とする財政規則を導入し、財政規律を大幅に緩めることはしませんでした。

税制簡素化の法案可決

ブラジル議会は12月15日、消費にかかる税金を簡素化するための法案を可決しました。

現在は5種類ある税金を、3種類に再編するというのが今回の柱です。

複雑な税制は、ブラジルの長年の課題で、ルラ政権の経済活性化に向けた重要な政策の一つでした。

2026年から33年にかけて、新たな税制に移行していく予定で、酒やたばこなど嗜好品にかかる税金は高く、基礎消費財には低減税率が適用されます。

これを受けて、格付会社のS&Pは12月19日、ブラジルの長期債務格付けを「BB-」から「BB」に引き上げました。

2023年11月

税制改革法案が上院で可決

議会上院は11月8日、下院が7月に可決していた税制改革法案を微修正した上で可決しました。

下院で再度採決する必要があるようですが、可決される可能性がかなり高いようです。

税制の簡素化により、これまで煩雑を言われていたブラジルの税制は改善され、海外企業の活動も助けられそうです。

2023年8月

2024年度のプライマリーバランス均衡を断念との報道

2024年度予算案において、同年の基礎的財政収支を均衡させる目標を政府が断念するとの憶測が広がっています。

8月31日、テベテ企画相が発表した予算案ではその目標は堅持されていましたが、歳入とのバランスで実現は難しいのではないかと言われています。

2023年7月の基礎的財政収支についても、市場予想を上回る赤字額となっていることや、政府債務残高が上昇したこともこうした憶測を正当化させているようです。

下院が新たな財政枠組みを最終承認

連邦議会下院は8月22日、新たな財政枠組み案を最終承認しました。

新しい枠組みでは、これまでの歳出の伸びを前年のインフレ率以下に抑えるという歳出上限法が撤廃されます。

その代わりとして、歳出の伸びを実質ベースで前年比0.6~2.5%、かつ前年の歳入の伸びに対して70%以下とすることを新たに定めます。

なお、基礎的財政収支の目標を達成できなかった場合は、前年の歳入の伸びに対する歳出の伸びを50%以下に抑制します。

新たな財政規則を可決

ブラジル連邦議会下院は8月22日、新たな財政規則を承認しました。

これまで、歳出の伸びはインフレ率以下とする規則だった所を、歳入の増加額の7割を歳出増の上限とするものに変更します。

これまでよりも歳出増に一定の歯止めがかかるため、金融市場では前向きにとらえられているようです。

インフラ計画を発表

ブラジル政府は8月11日、1兆7000億レアル(約51兆円)のインフラ投資計画を発表しました。

道路やエネルギー、住宅、公衆衛生への投資を通じて、交通網の改善や貧富の格差の縮小につなげる意図です。

今回の計画では総額のうち政府は3710億レアルを投じる予定で、国営企業による投資は3430億レアル、民間企業の投資は6120億レアルを想定しているようです。

なお、国営銀行は3620億レアルを融資する予定です。

計画は「成長加速プログラム(PAC)」とよばれ、ルラ氏が前回大統領を務めていた07年から始まったものです。

後任のルセフ元大統領の時代も含め、左派の労働者党政権下では同様のPACを公表してきたという経緯があります。

2023年6月

就任半年で、一定程度の手ごたえ

ルラ氏が大統領に再就任して半年がたっており、本人としてはある程度の手ごたえを感じているようです。

看板の社会政策では、2023年3月と6月に、子供がいる貧困家庭向けの現金給付額を増やし、5月には最低賃金を月額1320レアルと、従来額から18レアル引き上げました。

また、個人所得税が非課税となる範囲も月間所得2112レアルと、従来(1903.98レアル)から上げました。

一方で野放図な歳出増はある程度抑えられる見通しで、金融市場でも好意的な評価が目立っています。

この状況にルラ氏も満足していると政権の実績を自賛しています。

外部評価機関も例えば、米S&Pグローバルは6月14日に、ブラジルの外貨建て国債の信用格付けを「BBマイナス」に据え置く一方、見通しを「安定的」から「ポジティブ」に引き上げています。

しかし、国内の支持率は低調なままです。

6月上旬に実施された世論調査では、ルラ氏の支持率は37%にとどまりました。これは3月に実施された41%という数字からも下落しています。

2023年5月

当初より財政規律を重視する修正案が発表

ブラジル下院では、新たな財政枠組み案が議会下院で審議されていますが、これに関してより財政規律を重視する修正案が発表されました。

具体的には、基礎的財政収支の目標を達成できなかった場合の罰則(翌年の歳出を抑制するルール)が厳しくなり、2年連続で達成できなかった場合の罰則も追加されています。

ただ、これらの修正案は前から出ていたものであったため、市場の反応は限定的でした。

2023年4月

財政枠組みの法案、審議長引く可能性

4月18日に新たな財政枠組み案が議会に提出されました。

先月末に財務省がを公表して以降、金融市場ではこれを好感する動きが続いていたわけですが、今回の具体案が提出されると、歳出の上限を定める部分には抜け穴が多いことが分かり、これが政府の財政目標達成に向けたコミットメントが弱いとの見方につながりました。

リラ下院議長は5月10日までに採決する意向を示しましたが、上記の懸念点を払しょくするために法案の修正が必要との声が多く、審議は長引く可能性が高そうです。

【直近1か月のUSD-BRLの推移(出所:Tradingview)】

2023年3月

新たな財政枠組み案が大方決定

3月下旬、ルラ大統領が新たな財政枠組み案を認めたようです。

3月30日に財務省が新たな財政枠組み案を公表しました。

財政政策の柔軟性を高める一方で、過去12カ月の歳入の伸びに対して歳出の伸びを70%以下に抑えることなどによって、財政規律を保つ方針です。

また、基礎的財政収支を2024年に均衡させ、2025年はGDP比0.5%の黒字、2026年はGDP比1.0%の黒字にする目標が示されました。

2023年1月

アルゼンチンと共通通貨の創設を協議

アルゼンチンと共通通貨の創設に向けて協議する方針が示されました。

ブラジルとアルゼンチン首脳が雑誌に寄稿して明らかにしたものです。

ただ、共通通貨は貿易決済などに用いるだけで両国の通貨であるレアルとペソは存続させる方針のほか、そもそも実現可能性が高くないとの見方もあり、市場の反応は限られています。

競技することについて1月23日に実施する首脳会談で合意する予定との事です。

引き続き閣僚発言で左右される金融市場

金融市場は、閣僚発言で上下する展開が続いています。

ルラ大統領が最低賃金の更なる引き上げをめざすと発言したことや、工業品税の廃止をめざす方針が報じられたことで、財政悪化への懸念が再燃してレアルが売られました。

一方、ハダジ財務相の消費税・所得税改革を進めるとの発言ではレアルが買われたり、一喜一憂している感じです。

【直近1か月のUSD-BRLの推移(出所:TradingView)】

この他、大統領が中銀の独立性を批判する場面があり、騒ぎとなる事もありました。

閣僚発言でレアル高・株高

閣僚が財政規律の維持などを発言したことで、金融市場は上昇しました。

【直近1か月のUSD-BRLの推移(出所:TradingView)】

【直近1か月のボベスパ指数の推移(出所:TradingView)】

テベテ企画相が財政規律を重視する方針を示したほか、ハダジ財務相が今年の基礎的財政収支赤字をGDP比1%未満に抑制する計画を発表しました。

基礎的財政収支赤字においては、予算案で2.2%の赤字が予想されていたため、ポジ底部サプライズとなって金融市場は上昇しました。

熱帯雨林と民営化方針を転換

1月2日発表の政令で、アマゾン熱帯雨林保護の強化、国営企業の民営化調査を凍結する方針を打ち出しました。

政令では、先住民の土地で許可されていた小規模な金の採掘を認めないように改めました。

鉱物資源の発掘場所へのアクセスなどのために、違法な森林伐採が横行していると判断しているためです。

国営企業の民営化にもブレーキをかけます。

ボルソナロ氏は再選した場合は国営石油ペトロブラスや郵便電信公社の民営化も計画しており、実現に向けた調査を始めていましたが、ルラ氏は政令で、この調査の停止を決めました。

ルラ氏の就任式

ルラ大統領が1月1日に議会で就任演説し、飢餓や貧困、人種差別解決を訴えました。

ルラ大統領は財政運営で堅実な姿勢を示す一方で、飢餓をなくし、格差を縮小することを目標にすると宣言しました。

就任式では改めて歳出上限法の廃止を主張したほか、昨年末で終了予定だった燃料税の免税措置が年明け後も延長されたことで、財政悪化への懸念が再び強まりました。

また、国営石油会社ペトロブラスの最高経営責任者に起用されたプラテス氏がガソリン価格の安定化策導入を示唆したことで、株式市場では新政権による国営企業政策への警戒感が高まりました。

【年末年始を挟んだUSD-BRLの推移(出所:TradingView)】

2022年12月

貿易大臣にアルキミン氏

ルラ次期大統領は12月22日、次期開発・工業・貿易相をジェラルド・アルキミン次期副大統領が兼務すると発表しました。

同氏は、経済界の支持が厚いことで有名です。

財務相などに左派政治家を起用しているため、アルキミン氏の起用でバランスをとる狙いがあるとみられます。

財政悪化懸念が和らぐ給付案に落ち着く

低所得者向け現金給付などに掛かる歳出を歳出上限法の対象外とする憲法改正案が下院で可決されましたが、金融市場が懸念するほどの財政悪化は避けられそうです。

対象外とする金額は上院を通過した1,450億レアルのままだが、期間は2年間から1年間(2023年のみ)に短縮されました。

これにより、月600レアルの低所得者向け現金給付は年明け後も継続され、6歳以下の子供1人あたり月150レアルの追加給付も可能になります。

ただ、財政悪化懸念を強めることにはつながらず、一応ルラ次期大統領の選挙公約も守られた形となり、更に景気下支えにもつながると考えられ、良い妥協が成立したと評価されているようです。

次期財務大臣が財政拡大を否定

フェルナンド・アダジ次期財務相は12月14日、懸念されている財政拡張について否定的な意見を述べました。

財政拡大政策は現状では経済の助けにならず、政府は金利引き下げを可能にするために財政を整理する必要があると述べました。

これを受けて、財政支出急拡大への懸念が後退しています。

財務大臣に左派政治家

ブラジルのルラ次期大統領は12月9日、2023年1月に発足する政権でフェルナンド・アダジ元教育相が財務相に就くと発表しました。

この人物はルラ氏に近い左派の有力政治家です。

低所得者層を重視した社会保障政策を拡充する一方で、財政規律の軽視が懸念されます。

憲法改正案が上院を通過

ルラ次期大統領の政権移行チームが連邦議会に提出していた憲法改正案が上院を通過しました。

歳出上限法の対象から除外する枠が1,980億レアルから1,450億レアルに、期間が4年から2年に圧縮された事で、上院を通過しました。

このまま憲法改正案が下院で審議・採決される見込みとなっています。

2022年11月

財政政策への懸念が和らぎ、株価・通貨共に上昇

ルラ次期政権による財政政策への懸念が一段と和らぎ、株高・債券高・通貨高となっています。

政権移行チームは11月29日、憲法改正案を議会に再提出しました。16日に提出していた原案では、低所得者向け現金給付などに掛かる歳出を歳出上限法の対象から「恒久的に」除外することを求めていましたが、金融市場がこれにネガティブに反応したこと等で修正案を出しており、そこでは「4年間」の期限付きになるなど譲歩が見られました。

また、財務相をアダジ氏(労働者党・左派)ではなく、アルキミン次期副大統領(ブラジル社会党・中道左派)に兼任させるとの観測報道も好感されました。

これを受けてレアルは買われ、株価も通貨ほどビビットではありませんが上昇しています。

【直近1か月のUSD-BRLの推移(出所:TradingView)】

【直近1か月のボベスパ指数の推移(出所:TradingView)】

格差縮小へ課税最低限上げへ

ルラ次期政権は税制改革を通じて所得格差の縮小に取り組む予定です。

最低課税所得を引き上げたり、累進課税を強めたりすることが具体的な施策です。

ただ、右派や中道が多数を占める議会の支持を得られるかどうかは分かりません。

ブラジルでは現在、月間所得が1903.98レアル(約5万1000円)までは個人所得税がかかりませんが、この水準を5000レアル位までに引き上げる可能性があるとされています。

最低課税所得額を引き上げた場合、控除の対象は現状の802万人から2507万人に増え、政府歳入を年間で1943億レアル押し下げる可能性がありますが、同時に高所得者層への課税を増やして、その現象を食い止めようとするようです。

ルラ次期政権は広範な税制改革を目指しており、投資受け入れや輸出競争力を失う原因になっている非常に複雑な税制の簡素化も検討しているとの事です。

低所得者向け現金給付の案は縮小

11月16日に政権移行チームが議会に提出した憲法改正案は、早くも難局を迎えています。

この憲法改正案は低所得者向け現金給付などに掛かる最大1,980億レアル(対GDP比2%弱)を歳出上限法の対象から除外することを含んでいます。

しかし、そのまま議会を通過するのは難しく、早くもその規模は大幅に縮小されるとの見方が強まっています。

ルラ氏の動向で一喜一憂

ルラ氏の経済性悪に関する動向でマーケットは一喜一憂しています。

14日は、政権移行チームが比較的保守的な財政支出計画を検討しているとの報道から株高・金利低下(債券価格上昇)、レアルは対米ドルで横ばいの反応となりました。

16日は、政権移行チームが主な社会保障支出を歳出上限法の対象から除外する憲法改正案を近いうちに発表するとの観測から、株安・金利上昇・レアル安となりました。

【直近1か月のUSD-BRLの推移(出所:TradingView)】

【直近1か月のボベスパ指数の推移(出所:TradingView)】

その憲法改正案は16日の取引終了後に議会に提出され、これを受けて17日の取引開始直後にボベスパ指数とレアルがいずれも前日比で2%超安くなる場面があったものの、マンテガ元財務相(左派・労働者党に近いとされる)が政権移行チームを去ったとの報道を受け、買い安心感が生まれ、いずれも0%台前半まで下げ幅を縮小しています。

新政権への懸念で株安、債券安、通貨安のトリプル安

11月上旬のブラジル金融市場では、株安・債券安・通貨安のトリプル安が急速に進みました。

株式市場ではボベスパ指数が11万台後半から11万前後に下落し、債券市場では10年国債利回りが12%前後から13%台前半に上昇、為替市場ではブラジル・レアルの対円レートが29円前後か
ら26円前後へレアル安円高に振れました。

事前の市場予想では、ブラジル大統領選挙に向けて、レアルなどの変動が懸念されていましたが、むしろ決選投票後のブラジル市場に変動が見られます。

もちろん、この背景にはルラ氏の政策への懸念です。

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